卯月の恋
「あの日、店の客に後をつけられてて、部屋の前で追い返そうとしてたらすみれに見つかってさ。あの子、俺のストーカーするくらいだから、すみれになんかされたら、と思ってあんな言い方した。あの後、すぐに帰らせたけど、家がバレた以上、またいつ来るかもわからないし。すみれのうちに行くとこ、見られてもやばいし。だから、引っ越した」


礼央は、ごめん、と小さく呟いた。

「その時、ホストもやめようと思った。嘘をつくことでしか好きな人を守れないなんておかしいよな」

好きな人。

礼央の言葉に、また涙がぽろり、とこぼれた。
礼央は私の涙を指先でぬぐって言った。


「すみれに泣くな、って言ったのは、泣いてるのを見たら、抱き締めたくなるから」


私は礼央に抱きついた。
シャツからはタバコの匂いはしなかった。


礼央はそっと私を抱き締めて、ごめん、ともう一度謝った。


「なにに謝ってるの?」


「急にいなくなったこと。嘘ついたこと」


「もういなくならない?」


「うん」



< 103 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop