卯月の恋
ドアが開いた。
玲音はスーツ姿だった。
細身の黒いスーツに光沢のあるグレーの細いネクタイ。
ネクタイと同じ生地のチーフ。
体にピッタリのスーツはオーダーメイドだろう。
髪はワックスでセットされていて、朝と同じ人とは思えないくらい、ビシッとしている。
「あ…あの…。今朝はありがとうございました」
勢いよくお辞儀をしてから、マドレーヌの紙袋を渡す。
「これ、お礼の気持ちです。お借りしたお金も中に入ってます」
「あー、どうも」
玲音はそう言うとマドレーヌを受け取り、もう用事は済んだ、と言いたげに、
「じゃ」
と言ってドアを閉めようとする。
「あ、ちょっ、待って待って、待って下さい」
思わず声をかけた。
一度ドアが締まったら、もう二度とドアを開けてくれない気がして。
「…なに?」
「…えっと」
やばい。
なんにも考えてなかった。
玲音はしばらく私があー、とかうー、とか言うのを黙って見ていた。
「…俺今から仕事だから」
再び、ドアが閉まりそうになる。
「よかったら!…よかったら今度、うちにご飯食べに来ませんか?料理、作りますから」
必死だった。
ドアが閉まらないように。
この細い細い繋がりを断ち切ってしまわないように。
こんな風に自分から男の人に声をかけるなんて、しかもほとんど知らない相手を誘うなんて、初めてだったけど。
だけど、玲音のことをもっとよくしりたいから。
「…私の料理、おいしいですよ?」
自分で言うのもどうかと思うけど、そう付け加えてみた。
玲音は私の顔をじっと見つめた。
真っ直ぐな瞳で。
「…木曜日」
しばらくして、玲音はそう言った。
「えっ?」
「木曜日は仕事休みだけど」
「あっ、はい。木曜日、だ、大丈夫です。お待ちしてます。あの、七時でお願いします」
じゃ、と短く言って、今度こそドアは閉められた。
だけど、さっきみたいに二度と開かない感じはしなかった。
細い細い繋がりは切れなかったのだ。
玲音はスーツ姿だった。
細身の黒いスーツに光沢のあるグレーの細いネクタイ。
ネクタイと同じ生地のチーフ。
体にピッタリのスーツはオーダーメイドだろう。
髪はワックスでセットされていて、朝と同じ人とは思えないくらい、ビシッとしている。
「あ…あの…。今朝はありがとうございました」
勢いよくお辞儀をしてから、マドレーヌの紙袋を渡す。
「これ、お礼の気持ちです。お借りしたお金も中に入ってます」
「あー、どうも」
玲音はそう言うとマドレーヌを受け取り、もう用事は済んだ、と言いたげに、
「じゃ」
と言ってドアを閉めようとする。
「あ、ちょっ、待って待って、待って下さい」
思わず声をかけた。
一度ドアが締まったら、もう二度とドアを開けてくれない気がして。
「…なに?」
「…えっと」
やばい。
なんにも考えてなかった。
玲音はしばらく私があー、とかうー、とか言うのを黙って見ていた。
「…俺今から仕事だから」
再び、ドアが閉まりそうになる。
「よかったら!…よかったら今度、うちにご飯食べに来ませんか?料理、作りますから」
必死だった。
ドアが閉まらないように。
この細い細い繋がりを断ち切ってしまわないように。
こんな風に自分から男の人に声をかけるなんて、しかもほとんど知らない相手を誘うなんて、初めてだったけど。
だけど、玲音のことをもっとよくしりたいから。
「…私の料理、おいしいですよ?」
自分で言うのもどうかと思うけど、そう付け加えてみた。
玲音は私の顔をじっと見つめた。
真っ直ぐな瞳で。
「…木曜日」
しばらくして、玲音はそう言った。
「えっ?」
「木曜日は仕事休みだけど」
「あっ、はい。木曜日、だ、大丈夫です。お待ちしてます。あの、七時でお願いします」
じゃ、と短く言って、今度こそドアは閉められた。
だけど、さっきみたいに二度と開かない感じはしなかった。
細い細い繋がりは切れなかったのだ。