卯月の恋
「ごちそうさま」


全部きれいに食べてくれた玲音は、そう言って手を合わせた。


「片付けますから、そのまま置いといてください」

そう言ったのに、玲音は皿くらい洗う、と私のお皿まで持ってキッチンに向かう。


うでまくりをしてテキパキとお皿を洗う姿を後ろから見ていたら、なんだか新婚さんみたい、なんて思う。


「…なにしてんの?」

また笑いが込み上げてきて、クッションに顔を埋めてにやにやしていたら、後ろから冷静に声をかけられた。

「あっ、すみませんっ」


クッションを胸に抱えて座り直す。

玲音がまた、ふっと少しだけ笑った。

「アンタ、いくつ?」

玲音は私の隣に並んで、ベッドにもたれるように腰を下ろすとあぐらをかいだ。

「22歳です」

「ふぅん。じゃ就職したばっか?」

はい、と返事をしながら、頭の中ではいろいろな事を考えていた。

玲音は何歳?
どうしてホストになったの?
本名は?

だけど、聞けなかった。
聞いちゃいけない気がして。


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