卯月の恋
玲音はぼんやりとキリコの方を見ている。

静かだけど、気まずくはなかった。
変なの。
玲音のこと、ほとんど何も知らないのに。
本当は私のことを、いい鴨だって思ってるかもしれないのに。


ふ、と玲音が私を振り返った。

そのまま、じっと私のことを見ている。

な、なんだろう。
口の回りにカレーでもついてたりして…。

なにかついてますか?と聞こうとした時、玲音が腕をのばして私のセミロングの髪をひとふさ、手に取った。

そのまま、するすると指をすべらせ、すとんと髪は落ちた。

玲音はそれをもう一度、繰り返した。

その触り方は、まるで小さい子が興味のあるおもちゃに手を伸ばすみたいに自然だった。

この人、遊んでる。
私の髪で。




「さらさら」


しばらく触ったあと、玲音はそんな単純な感想を口にした。


「それに真っ黒」


「…染めたことがないので」



私がそう言うと、玲音は目を丸くした。


「一度も?」

「はい、一度も」

「久々に見た、こういう黒髪」


玲音はそう言って、もう一度私の髪にふれた。



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