卯月の恋
お酒とか、昼夜逆転はどうにも出来ないかもしれないけど、食事くらいはちゃんとしてほしい。
体に優しい温かい料理をきちんと食べてほしい。


私はしばらく考え込んだ。


黙り込んだ私の髪を、玲音がまた触る。

人に髪をさわられるのって気持ちいいな。

「アンタの髪、気持ちいいな」


玲音がボソッと呟いた。


「お休みは毎週木曜日ですか?」


「だいたいそう」


「じゃあ…木曜日はうちでご飯食べてください」



「は?」



玲音が私の顔をのぞきこんだ。


距離が近くてドキドキする。


「だから!木曜日はうちでご飯食べてください!」



玲音が薄茶色の目で私を真っ直ぐ見た。

それから、笑った。


にっこり。



その瞬間、私は呼吸を忘れた。




「ありがと」


玲音はそう言って、私の頭をぽんぽん、と撫でた。


「そうする」


それから、玲音は立ち上がって玄関に向かった。

その後ろ姿を見て、ようやく息を吐いた。


笑顔で息が止まったのは生まれて初めてだ。


玲音はあの笑顔で何人の女性を虜にしているのだろう。

私もきっとそのうちの一人なんだ。


「おやすみ」


靴をはいた玲音が振り向いてそう言った。

その顔はもういつも通り、クールな無表情だった

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