卯月の恋
キリコはピーターラビットのモデルになったネザーランドドワーフという種類のうさぎで体の色は茶色だ。


仕事から帰宅後、キリコをお部屋の中で自由に散歩させながら、私はノートパソコンを見ていた。


「次は和食がいいかなぁ」



料理のレシピがのっているサイトを見ながら、ぶつぶつ呟く。

一人暮らしをしていると、ついつい独り言が多くなってしまう。


「野菜をいっぱい食べてほしいしなぁ」

ふと下をのぞくと、机の下でキリコが私の膝にぴったりとくっついていた。


その柔らかい背中をなでながら、思い出すのは、こないだの玲音の笑顔だ。


22歳になるまで、恋らしい恋はしてこなかった気がする。

いいなと思う人はいても、ただの憧れでその人の特別な存在になりたい、なんて思うことはなかった。


友だちとか家族とかキリコとか、私には大事な人がいっぱいいて、その人たちがいれば、彼氏なんていなくても別にいいと思ってた。
女の子たちが愛だの恋だので盛り上がってるのを見て、私はそういう女の子っぽいタイプじゃないんだなぁ、って思ってた。


でも、玲音の笑顔を見た時、私は気づいた。

出会ってなかっただけなんだ、って。

あの日から、玲音の笑顔が見たくて、玲音の特別になりたくて、玲音のことをよく知りたくて、いっつも玲音のことばかり考えてる私がいて。

「早く木曜日にならないかな…」


呟いて目を閉じた。

夏に向けてミニトマトとピーマンの苗を買いにいこう、なんて考えながら。

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