卯月の恋
「何が変なんですか?」


お店のおばちゃんが入れてくれた、温かいほうじ茶を飲みながら、私は首をかしげた。


「だって、そんなのまるで老夫婦みたい」


老夫婦。
私は思わず吹き出す。

どうせなら、新婚さんって言ってほしい。

「ホストなのに、女の子の部屋に来て手も出さないなんて…。そんなホスト聞いたことない。何を企んでるんだろう。宮内、もしかして実家がすごいお金持ちなの?」


秦野さんの言葉に、私は思いきり首をふる。


「普通の中流家庭です」


「じゃあなんでだろう…」


お湯呑みを両手で包み込むように持ちながら、秦野さんはぶつぶつと呟いた。


「ホストだからって、みんながみんな、悪い人じゃないですよ?」


少なくとも玲音は違う。


「そりゃあね。でもホストっていう仕事をしてる人は普通の人より女の子と接する機会が多いし、扱いにもなれてることは間違いないと思う。女の子の恋心をお金にかえるのが仕事なんだから。それは忘れないでね」


秦野さんの言葉に私はこくり、と頷いた。


午後の仕事が始まってからも、心は重く沈んだままだった。


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