卯月の恋
玲音は川崎さんに向かって、ぺこりと軽くお辞儀をしたあと、私を胸に抱いたまま自分の部屋の鍵を開け、そのまま私を中に押し込んでドアを閉めた。


そのまま後ろ手でガチャリ、と鍵を閉める。


まるで、川崎さんを追い払うみたいな音。



玲音のスーツからは、たばことお酒と香水の香りがした。


はぁと頭の上から、ため息が聞こえたかと思ったら、腕の力がふっと抜けて、玲音が私から離れる。

狭い玄関で向かいったまま、しばらく玲音は黙っていた。



「酔ってんの?」


玲音に顔をのぞきこまれて、急に抱き締められたことを思いだし、恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいになった。



「前から思ってたけどアンタ、バカなの?」


次の玲音の言葉は冷たかった。
玲音はイライラした様子で眉をしかめる。


「酔って男に送ってもらって部屋に入らせたら、どうなるかくらいわからねーの?」


「……」


「それとも、アンタ誰でも部屋に入れちゃうわけ?」


「…そんなんじゃないもんっ」


「前から思ってた。なんで俺みたいなよく知りもしない男を部屋に入れるんだろって。でもアンタ、誰でもいいんだな」


違う。
玲音だから。
玲音だから、一緒にいたかったのに。


玲音が好きだから。


なのに…。


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