卯月の恋
ぽた、と涙がこぼれた。
一粒落ちたら、こらえきれなくて、あとからあとから涙がこぼれる。


「泣くのやめて。女の涙なんかうざいだけだから」


玲音は泣く女は嫌いなんだ。
泣き止まなきゃ。
玲音に嫌われちゃうから。


「…ひっく…」



深呼吸を何回も繰り返して、込み上げる涙と気持ちを閉じ込めた。
もう玲音の前で泣いたりなんかしない。


涙を拭いて目を上げると、玲音が私を見ていた。

真夜中の玄関は、窓からの月明かりだけが頼りで、玲音の顔ははっきり見えなかった。


だけど、私には玲音が悲しそうに見えた。

変なの。

泣いたのは私なのに。
悲しいのは私なのに。


どうして玲音がそんな目をするの?



「悲しいの?」


私は聞いた。



玲音は眉をぎゅうっと寄せて、私から目をそらした。


玲音はうさぎみたいだ。
具合が悪いのを隠したり、
犬みたいに鳴けずに、ただ足を踏み鳴らすだけの。


さみしがりやのうさぎみたいだ。



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