卯月の恋
「タオル持ってくるから、上がって」


玄関でそう言うと、玲音は部屋の奥に行ってしまう。


前は暗くてよくわからなかったけど、玲音の部屋は角部屋のせいか、入ったらすぐリビングがある私の部屋とは違って、廊下があり、リビングはその奥にあるみたいだった。


入って、って言われたけど…。
足もびしょぬれだしな。


そう思って玄関でじっとしていたら、戻ってきた玲音が私の頭にバスタオルをばさっとかぶせ、そのままごしごしと拭かれる。


「風呂、わかしたから入って」



「へっ?お、お風呂?」


「心配しなくても、アンタみたいなバカ、誰も襲わないから」


玲音はふっと笑いながら私の腕を引っ張り、そのままぐいぐいと私はバスルームに押し込まれてしまった。


「新しいタオルそこに置いてるから。あと、そこの服きて」


扉の向こうから玲音の声がする。


見ると、白いバスタオルのよこに、玲音の服らしきグレーのTシャツとハーフパンツが置いてあった。


「どうしよう…へくちっ」


またくしゃみが出た。
さっきから、体の震えが止まらない。

冷えきった体は、バスルームからの温かい湯気の誘惑には勝てなかった。


どうしようもこうしよう、もあるものか。

もうここまで来たら、とりあえずお風呂に入らせてもらおう。

半ば、やけになった私はすっかり濡れて重たくなったワンピースを脱ぎ捨てた。


あとのことは、お風呂を出てから考えよう。




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