卯月の恋
「ち、ちょっ、ちょっと待って!」


私は思わず玲音のTシャツを掴む。

雨の音に、少しナーバスになってたのかもしれない。
この広い部屋に一人で残されることが、なんだか急に寂しくなった。


「なに?」

振り向いた玲音は、私を見て、ふっと笑った。


「すぐ帰ってくるって」


私は返事が出来なかった。
ただ、そっと手を離した。

どうして私の気持ちがわかったのだろう。

胸が苦しかった。

好きになってもらわなくても構わない、と思ったのはつい数日前のことなのに。

そんな風に優しくされたら、私はきっと希望を持ってしまう。

どれだけ冷たくされても、思いはこんなにも溢れてきているというのに。

そんな風に優しく見つめられたら、私はきっと勘違いをしてしまう。


そして、底無し沼に沈むように玲音にはまってはまって、いつかきっと溺れてしまうんだ。


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