卯月の恋
玲音は私の腕を優しさの欠片もない力加減でぐいっと引っ張ると、ベッドに押し込んで、自分も隣に潜り込んだ。


そして、反対側を向いて私に背を向けると、ぶっきらぼうに、おやすみ、と言ってリモコンで電気を消す。


「おやすみなさい…」



真っ暗な部屋の中で、私はパッチリ目を開けていた。
しばらくすると、目が暗闇になれてくる。


そっと、後ろを振り向くと玲音の頭が見えた。

私は、この人の年齢も出身地も本当の名前さえ知らない。

ホストだから、お金のために女の人をいっぱい騙したり、嘘をついたり、泣かせたりしてるのかもしれない。

何にも知らないのに。


それなのに、どうしてこんなにも好きなんだろう。




今なら。
もし玲音が店に来て、と言ったら、私はきっと行くだろう。
いそいそと貯金をおろして、玲音が頼むならきっといくらでもお金をつかいだろう。

そう考えたら、怖かった。
ホストにはまってしまう女の人の気持ちが少し分かる気がする。
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