卯月の恋
玲音を起こさないように、そっと腕をどかしてベッドからおりた。


携帯を見ると、8時を過ぎている。
どっちにしても、今日は大家さんに電話して鍵を開けてもらわないといけないし、会社は休まなければならない。

うちの会社は有給をつかうことを推奨されていて、結構みんな気軽に休んだりするので気が楽だ。
そういう社風なんだろう、と思う。
商品部では飼い犬のお産で休んだ人もいるらしいから。



携帯を手に、廊下に出て、玄関のあたりで会社に電話をする。

電話に出たのは、カキモトケイスケ課長だった。


「おはようございます。宮内ですが」


かいつまんで事情を話し、午前休をいただきたいのですが、と言うと、カキモトケイスケ課長は、そりゃ大変だったねぇ、とのんびり答えた。


「昼からは出勤しますので」


『はいよ。じゃあ待ってまーす』


失礼します、と電話を切ろうとしたら、電話の向こうでカキモトケイスケ課長が小さく、あ…と声をもらした。


「え?課長?」


『あー、宮内さん?今、宮内さんのデスク見たら、部屋の鍵みたいなの置いてるけど、これなんの鍵?』



私の部屋の鍵です…。



「すみません。あったみたいです。今から取りに行きます」

『あ、これそうなの?じゃ、取りに来ていったん帰る?』


「そうしてもいいですか?」


『いいよー』



カキモトケイスケ課長は、あはは、と明朗に笑って電話を切った。


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