卯月の恋

ベイサイド

「ビアガーデン…ですか?」

「そ。合同親睦会、パート2」

川崎さんはヘラっとそう言いながら、ベイサイドホテルの屋上で先週オープンしたばかりのビアガーデンのチラシを私に見せてくれた。

そうか、もうそんな季節。

チラシには、夜景をバックにビールを傾ける人たちの写真が載っていて、その楽しそうな様子につい頬がゆるむ。


「すみれちゃん、行くでしょ?今日は金曜日だし」

「へぇ。ビアガーデン。私も行く」

川崎さんの後ろから、急に顔を出した秦野さんが、私の手からチラシをするり、と抜き取って笑う。

「は、秦野さんっ。ビックリした」

川崎さん、ビビりすぎだよ…。
この二人、本当に仲悪いなぁ。
前世で何かあったのかしら。


「宮内、行こうよ。ここのビアガーデン、スイーツも充実してるよ」


「スイーツもあるんですか?行きますぅ」

「じゃ、とっとと仕事片付けちゃお。川崎くん、邪魔」


追い出された川崎さんが、なんとも悲しそうな顔で姿を消すと、秦野さんは、今日は飲んじゃお、と呟いてパソコンに向かう。


ブラインドタッチでキーボードを叩くきれいな指先を見るともなく見ながら、あの人の指先もきれいだったなぁ、なんて思う。

玲音と一緒にいた、女の人。

自分の子どもみたいな丸い爪を見て、つい出そうになったため息を飲み込んだ。
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