卯月の恋
「やばい…。まだ仕事、終わんない。宮内、先に行ってていいよ」


秦野さんはパソコンにデータを打ち込みながら、振り返りもせずにそう言った。

いつもなら、定時ですぐ帰る秦野さんが、珍しく残業をするという。


「手伝いますよ」

「いいよ。もうすぐ終わるし。終わったらすぐ行くからさ、ティラミスとシブースト、取っといて。あれすぐなくなるから」

「ティラミスとシブースト…」

「りんごよ。りんごのシブースト」

パソコンを見たまま早口でそう言う秦野さんの背中からは、スイーツに対するものすごい情熱が感じられた。


「りんごですね。わかりました。じゃあ先に行ってます」


「宮内、頼んだわよ」


ティラミスとりんごのシブースト。
心の中で繰り返してから、部署を出る。

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