卯月の恋
「…ビアガーデン、行かなくて良かったの?」

玲音が静かに聞いた。

「いいの」

ビアガーデンなんて、またいつでも行けるから。


「…ねぇ、玲音?」

「なに?」


私は空を見上げる。


視界のすみに、少しうつむいて歩く玲音が見えて、胸が苦しくなる。


「名前、聞いてもいい?」


「れお」

優しい声で、玲音はゆっくりとそう言う。
やっぱり本当の名前は教えてくれないんだ…。
思わず立ち止まった私を玲音はのぞきこんで言った。

「橋本礼央」



「え?」



「れおって、本名。漢字は違うけど。ホストになったとき、源氏名考えるのめんどくさくて。そしたら、マネージャーが本名のままでいいじゃん、って。だから、本当の名前、れお」


礼央は私の目を見つめながら、ゆっくりと話してくれた。


「…なに泣いてんの?」


「泣いてないよ」


「嘘つけ」



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