君と二人で奏でる音
ドクンドクン
心臓が、行ってはダメだと言っているような気がする。
でも、私の足は言うことを聞いてくれず
ひたすら前に進んでいくばかりだ。
人混みを掻き分けて、
やっとの思いで中心部につくと…
「と…おる?」
私はポツリと呟いた。
どこか見覚えのあるその姿に、思わずこぼれたのがその言葉だった。
呆然とその場に立ち尽くすと、
歌い終わった彼が立ち上がり周囲を見渡す。
そして。
一瞬だけ、私と目があった気がした。
気のせいかもしれない。
なのに、
胸が騒ぎ立てる。
ねぇ、お願い。
これは夢であってほしいよ。
この人が、"透"なわけはないから…
ライブが終わり客がある程度減っても、
私はその場から動けずにいた。
すると、私の前に大きな影ができる。
顔を上げると、そこにいたのは先ほどまでそこで歌っていた男だった。