君と二人で奏でる音
「なに?」
私は平静を装いつつ、無愛想に答える。
あれだけ取り乱している時点で、
恐らく彼には私がどれほど動揺しているか分かっていると思うし、
自分の存在に嫌悪感を抱かれているのにも気づいているだろう。
それなのに、
私と会話をしようとしている彼の気持ちが私にはどうしても分からない。
「…いや、特に用があったわけじゃないけど…」
ならなんでこんなことするの?
そう言おうと口を開いたはずが、
どうにもそれが口にできなくて
くっと唇を噛みしめ、
その言葉を呑み込んだ。
「俺、今こっちで音楽系の仕事やってるんだ。」
透はふっと話始める。
私はそれを、ただ黙って聞いていた。
「七海はまだ、歌が好き?」
そう聞いた彼の目を見つめる。
彼は、なんだか悲しそうな表情を浮かべて
ただただ私のことを見ていた。