イケメン無愛想S男子と契約を


屋上...すなわち校舎の6階部分にあたる階から猛スピードで降りた私たち


いや、もうほぼ3階に来たあたりから
私は曽良さんについていけず

半ば引っ張られながら1階へとたどり着く。



どうやら、私は一時間目をいつの間にかサボったようで、


運が良いのか悪いのか、今の時間は一、二時間目の間の休憩だった。




階段を下り終わってもなお続く山野さんとの鬼ごっこ。




手をつなぐ

無口でクールでツンけんとしている曽良さんと
特に名前を覚えられるような事は何もない平凡な女子が

学校1チャラいと噂の山野流星に追いかけられているという


なんというおかしな風景に



みんな注目してしまって




「...え。曽良くんとあの......女子、手繋いでるんだけど」



「っていうかすごく曽良くん笑ってない!?」



「なにこれー流星くんったらすんごい血相で走ってるし。」




ヒソヒソとする会話を幾度となくすり抜け、



校舎の中を隅々まで走り回った後



後ろを振り返ると、いつのまにか
山野さんはいなくて...


もしかしたらうまくまけたのかもしれない。



や...やったぁ!!




「曽良さん!曽良さん!後ろに山野さんっひゃっ!?」





「黙れ」



ちょっ!?えっ!?


心の中で声には出せない悲鳴をあげる。


いきなり走るスピードが遅くなったのかと思うと


曽良さんは、一棟の空き教室に私を突き入れて、その後に曽良さんもその教室に入って



鍵を閉めた。





「ぇ?っと......曽良さん?」





「ハァーーー疲れた。厄介だな。君がいると。」




大げさに大きくため息をついた彼は
肩を深く落として、



鍵のしめた扉の前で座り込む私の隣に腰を下ろした。






「で、でも楽しんでたじゃない...。」



すごく笑ってたし。



「...ま。久々にあんなに階段駆け下りたしね。小学校以来かな。」



「そ...うなんだ。」





小学生の時の曽良さんはどうだったんだろうと
知りたくなって、


でも、彼の顔をのぞき見れば眉にしわを寄せて大きく息をしていて、


なんとなく聞ける時じゃないなと思った。




「なぁ。」





静まる薄暗い教室で
彼が私に問いかける。




「はい?」




何言われるんだろう。



と言うか、こんなことになったの全て私のせいだし...悪いことしてしまったなぁ。



怒ってるよね。



もしかして...





「おい。ゆり。おいっ!」



「へっ!?」



「ぼーっとしすぎでしょ。ふっ」




そう小さく笑う彼の顔を見て少し胸をなでおろした。



もし、


もしかしたら...




「大丈夫だよ。まだ俺は彼氏だよ。」




顔に出すぎ。



そう言っておでこにデコピンを食らわせた彼は


またふにゃりと笑った。



あぁ...どうしようもなく

かっこいい。





「あ、りがとう...。」


「っていうかさ、なんでひょこひょこついていってんの?」





耳元でつぶやく低い声に

あぁ、そういえばさっきまで
美里に大変なことをさせられるところだったんだと思い出す。




「...ごめんなさい。」



「俺、すんごい心配したんだけど。」




「え...。」




あの誰にも興味のない彼が、
人と関わるのを遠ざけてきた彼から出たその言葉が


あまりにも予想外で、



いや。


違う。それよりも彼が言った


私を心配したという言葉が




すごく、すごく胸を熱くして。





「あーぁ。泣かれるとすごいだるいんだから。」




「だって...だって...‼︎‼︎」




じわりと涙がこみ上げてきて、


目から止まらなく流れ落ちて、



曽良さん




「おいで。」





曽良さん。




は、そう言って、私の方へ腕を伸ばして



ギュッと私の体を引き寄せた。





「泣くなって。鬱陶しいから。」




私を強く抱きしめた。



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