イケメン無愛想S男子と契約を
「あ、あれぇ〜ゆりー何々!?どういうことぉー」
ひきつった表情の彼女は、彼の姿を見て必死に手櫛で髪を整えた。
「....なんだ、つまんね。行くよ。」
「え!?ちょっとー待ってよぉ〜」
クールを装った彼女でも彼の姿を見ればほおが少し赤くなる。
悔しそうな彼女たちの顔に私は心からセイセイした気分だった。
これを望んでた
私に向けるあの悔しそうな顔
「.....中澤って最低なんだな。」
「.......。」
「...今までそうやって見下すために虐められてきたの?ほんとつまんねえ。」
彼女たちが去って、中庭には二人きりの空間。
少しばかり気まずくなったのに
私が黙るから
もっともっと気まずくなる。
彼の言っている事は一つも間違ってなんかない。
「...言ったのはあなたでしょ。付き合ったって言ったのは貴方じゃん。」
「そう言えって言ったのは君。」
「....嘘つき。無理矢理連れてきて無理矢理言ったじゃん。」
歯止めの効かない返し合い。
わかってる。
彼の言う通り。
私は彼女たちのあの顔を見て嬉しかった。
正直、
ざまあみろっておもった。
「....じゃあ、どうしてた?俺があのまま本読み続けてたら?」
隣に立っていたであろう彼は
いつの間に私の目の前に立っていた。
私の腕を握りしめていた手もいつの間にか解けていて距離が遠く感じる。
「..,...それ...でも、私は......貴方に頼んでた。」
「...必死。」
「じゃないと孤立する。」
彼は小さく笑った。
チャイム音が中庭を駆け巡る。
「俺、孤立してるし。」
「......そう。だね。私はそんなの恥ずかしくてやっていけない。」
馬鹿だね
静かにそう呟いた彼は、落ち葉の積もるベンチに向かった。
私もそのあとをついていく。
「契約。」
「.....ぇ?」
「俺が君と付き合う契約。
俺がどうして無理やりここに連れてきたと思う?」
「...なに。」
彼は私の手を引くと、落ち葉を払いのけて、ベンチに座った。
私も慌てて綺麗になったベンチに腰をかけた。
ふと、横に顔を向ければ
彼に横顔に惹かれる。
整った顔つき
前髪は目を軽くおおう。
高い鼻に影を落とす長いまつげ。
「俺...1人が好きなんだ。
1人がいい。だから君に、」
さっと目の前が暗くなる。
彼の赤いネクタイが近くにきてぼやけだす。
「1人じゃない温もりを俺に教えろ。」
ぎゅっと何かに包まれた。
温かい何かは太陽の熱とは全く違う
温もり。
「....どういう...こと。」
「中澤って最悪だね。だから最悪じゃないってとこ俺に見せてよ。」
「......なに」
耳元でつぶやかれる声は太くて切ない。
「契約...守ってね?俺はちゃんと彼氏役するからさ、俺に人の温もり教えて?」
ギュッと握られた手に、冷や汗が走る。
......待って。
私は大きな間違いをしたのかもしれない。