いと。

ーチリンー

「…いらっしゃい。」

カウンター席にいつものように座ると、待っていたかのようにジントニックが出てきた。

「ありがと、薫。」

にこりと柔らかく笑う薫。

「今日はお帰りじゃないね。」

ちょっとだけ意地悪そうに私にそう言うと後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。

「何言ってんの?薫さん。

アイちゃん暫くここに来れなかったんだから十分『お帰り』だよ。

ね、お帰り。アイちゃん。」

またワザと薫を挑発するように私に顔を近づけてそう囁いた雄太くん。

薫はそれを見て一瞬だけピクリと眉を寄せ、満面の笑みでシンクを指差して

「雄太。皿洗え。」

そう言った。

えーという表情の雄太くんと薫はオープンから一緒なだけあって仲がいい。

雄太くんはいつか薫のことを『兄貴であり、師匠』と言っていたけれど、本当に兄弟のようにやりとりする 一面を見ているととても微笑ましかった。

見ているだけで幸せだった。

それは私が持たない『家族』を思い起こさせたのかもしれない。


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