いと。
「ん………。」
薫の部屋に泊まったある日の夜中、ふと感じた温もりに目が覚めた。
気がつくと、目の前にあったのは後ろから絡みついた愛しい腕。
「…薫………。」
呟くようにその名前を呼ぶと、その腕に少し、力が篭った。
「起きちゃった?愛。」
「んー、薫に起こされるならいいよ。
……おかえり、……おやすみ。」
少し身を屈めて回された腕に音を立てて軽いキスをする。
チュッというリップ音が響くと、薫は静かにクスクスと笑った。
「愛、それじゃ寝られないじゃん。」
「…擽ったかった?ごめ……っ!?」
一瞬頭が真っ白になったかと思うと既に薫は私を上から見下ろしていて…強めに組み敷かれた掌にはシャワーあがりの彼の熱が伝わっていた。
「………俺ずっと我慢してるんだけど。」
拗ねたような甘えたような声を出す薫の表情は暗闇の中では読み取れない。
「………我慢?」
「そう。愛、ずっと具合良くなかっただろ。だから我慢してたの。
そんな風にキスされたら………。」
「かお…るっ!」
雨が降るようにキスが落とされる。
私の眠っていた心も身体も一瞬で起こしてしまう、果てしなく甘くて嵐のように激しいキス。
それはチュッチュッとわざとらしく音を立てては本能を呼び起こし、その奥で静かに…でも確実に『薫が欲しい』という熱を生みだした。
「ん……。あ…っ、んっ!」
私を組み敷いていた手はいつの間にか部屋着の中に侵入していて、いつかの傷をそろりと撫でられた。
「………もう平気だよ?跡だって殆ど残ってないし。」
「……………。」
何も言わない薫に私はいつものようにいとも簡単に素肌を晒され、傷跡を喰むように口付けられ、また紅い跡が残った。