いと。
陣痛の知らせを聞き駆けつけた産院。
ふたりの無事を祈りながら分娩室の前で待っていて聞こえてきたのは赤ん坊の泣き声と…
泣き叫ぶ京香の声と、必死に宥める看護婦の声だった。
「いや!総一郎さんに見せないで!」
………思わず、耳を疑った。
でも確かに京香はそう言った。
「殺して!その子と私を殺して!
その子は総一郎さんの子じゃない!」
掠れるほどに声をあげ、そう言った。
「京香!どうした!?京香!」
訳がわからないまま分娩室の扉に貼りつくように京香を呼んでいるとその声が届いたのか一瞬ピタリと彼女の声が止み、何かもごもごと言っている雰囲気がした後………
全てが壊れた。
医師や看護婦の慌てた声。バタバタと聞こえる足音。
京香は、意識を失っていた。
数時間後に目が覚めた時は子供のことも、出産したことも、妊娠していたこの10ヶ月のことも………
夫である自分のことさえも忘れていた。