いと。

打ち明けられずにひとり思い悩み続けていた京香はずっと元気がなかったし食欲もなかった。それを妊娠中特有のことだろうと放っておいた自分の罪は如何程か。

それだけじゃない。

もっと寄り添って話を聞く時間を作れたはずなんだ。


京香が夫である自分を思い出したのは、精神科の医師にかかり一年が過ぎた頃だった。


それでも…、子供のことも出産のことも思い出すことはなかった。


ただ、『あなたが産んだのよ』そう周囲から言われて渋々承知しただけだった。

だから、愛はほとんど母の腕に抱かれていない。


…………もちろん私にも。


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