いと。
「あ…、こんばんは。えっと、お店まだ開いてますよ?」
あかりの見える店内を指差し、笑顔を向ける。
先日お土産をもらった時にしていた照れたような表情を見てしまってから、私の彼に対する警戒心や苦手意識は若干和らいでいた。
「いや、今日は店内に用事はないので。」
メガネのブリッジを直す仕草も見慣れた。
「…? そうですか。じゃあどちらかに向かわれる途中ですか?」
「………いや、そうじゃないですよ。」
「……………。」
『じゃあここで何を?』
そう言いかけたけれどさすがに何度も質問するのは失礼な気がして止めた。
「あ、では私はもう帰るのでこれで。」
軽く会釈をして帰ろうとすると、すれ違いざまに腕を掴まれた。
「…………っ!な…んですか!?」
突然のことに驚いて顔を見上げると
………え?何?その顔。
戸澤さんはひどく心配そうな顔をしていた。
「………大丈夫なのか?」
「…………え?」
普段とは違う口調に一瞬どきりとしてしまう。
「いや…、随分と顔色が悪い気がしたので。」
心配、してくれているのだろうか。私を掴む掌は、少し力が込められていて、薫のとはまた違う逞しさを感じた。
「…あ、疲れてるだけです。ここ暫く忙しいので。暑さもエアコンも得意じゃないですし。」
「そ…うですか。帰るなら送ります。そんな具合悪そうなの見てしまってからじゃほっとけないですから。」
心配そうな顔をまた無表情に近い顔に戻し、彼はそう言った。それがまるで意識的に表情を戻したように見えた私は、またちょっとだけ苦手意識が和らいだ。
「え? ふふ、失礼ですね。そこまでフラフラじゃないですよ。そんなに遠くないし、ちゃんと帰れます。
…でも、ありがとうございます。戸澤さんって意外と心配性ですか?
………じゃあこれで。
あ、秋物の食器やインテリアもそろそろ入荷するのでまたいらしてくださいね。」
「……ああ。また行きますよ。気をつけて。」