いと。

具合は確かに悪そうだった。それでも大丈夫と笑って帰っていった彼女は…、見た目の頼りない細さや顔色に似合わずしっかりと自立した女に見えた。

「…途中で倒れるなよ?」

後ろ姿を見送り、そう呟いた俺は………今までにない表情をしていた気がする。

父に勝手に決められた単なる結婚相手…。目的を達成したらサヨナラ…のはずなのに。

掌にはまだ、彼女の細くてしなやかな腕の感触が残っていた。


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