いと。
カツカツと冷たく靴を鳴らし、カウンターに座ったその人はやはり威厳がある。
「何を召し上がりますか?」
「……ウイスキーをもらおうか。」
その視線は一点、愛が選んだ時計を見つめていた。
「…どうぞ。」
「…………。」
「お話とは?」
静かに問うと、愛の父親はまっすぐに俺を見てこう言った。
「分かっているだろう。愛のことだ。君から別れを告げろ。
相手方から手が回って愛も仕事を辞めた。その方が私からも解放されるし幸せだからな。」
……仕事を、辞めた?そんな話は……
「…どういうことです?LINKは愛にとってただの職場じゃない。大事な居場所だ。
夢も希望も持って働いてる。
それを無理やり…辞めさせた!?
なんてことを!こんなやり方が許せるとでも!?
…無理やり人生を奪って何が幸せだよ!愛はあんたの道具じゃない!」
そこまで言うと、その人の目つきは嫌なものを見るように険悪なものに変わった。
「若造が口を出すことじゃない。
それより……、君が以前付き合っていた女性には子供がいたようだな。」
「…っ!」
動揺を見せた俺にニヤリと笑ったその口は、楽しそうに話を続けた。
「よく調べただろう?私も驚いたよ。君が知らない間に父親になっていたとは。
感謝してほしいぐらいだ。
でないと君は父親としての役目を一生果たせないところだった。
あの幼い子も父親の愛情を知らないままだった。
…で?いつから一緒に暮らすんだ?」
「…俺は一緒に暮らすなんてことは一言も…!」
「おや?そうか。そうだったか。では愛には私から話そう。
『お前の愛しいひとは平気で子供を捨てる男だった』と。」
「なっ…!」
「自分との幸せのために子供を捨てる父親を、愛はどう思うだろうなぁ。」