いと。
翌日。
私は父のいる会社へ向かった。
「…やっと決めたか。」
社長室の高級ソファに座る父は、私の所にいつも突然現れる姿よりずっとまともに見えた。
「………確かに、覚悟はしました。薫と別れる覚悟は。
もう、会うことはありません。」
それを聞いた父はニヤリと笑みを作り、満足そうに膝を叩いた。
「そうかそうか。では先方にも伝えよう。
娘が決心したから話を進めると。」
「………いいえ。結婚はしません。」
一気に歪んだその憎らしい顔を、まっすぐに見据える。
「………なに?」
「結婚はしないと言ったんです。あなたの会社の為に犠牲になるつもりはありません。
その旨先方にも伝えてください。必要なら私からも話します。
私の人生は私が決めて私が作ります。
誰にも振り回されません。」
冷静に、でも強く意思を伝える。
その間中、父がどんどん怒りに満ちていくのがはっきりとわかった。
「お前の、人生?随分と大きな口を叩くじゃないか。
お前は生まれただけで罪なんだぞ。私のこの世で一番大事なものを苦しめ…壊した。
そのお前に自分の人生なんて言う権利があるとでも!?
お前は一生、その身をもって償うんだ。私の道具として!」
これまで以上に怒りと憎しみに満ちた黒い瞳。
私は………そこまで憎まれていたんだ。
それでも私は、引き下がる訳にはいかないんだ。
拳を握り、一呼吸置いてまた対峙する。
「…どう思われても構いません。
ではお相手の方を教えて下さい。直接お話させていただきます。
どちらの方ですか?」