いと。
忙しい1日を終え閉店し、片付けや雑務を終えて店を出ると、
「はぁ…、疲れたな。」
自然とそんな呟きが零れた。
一日中立ちっぱなしのことも多いこの仕事は見た目の穏やかさや華やかさ、雰囲気とは違い体力的にもハードだ。
そして。
疲れた体を引きずってでも仕事帰りに必ず向かうのは、大好きな彼のお店『ドロップイン』だった。
ーチリンー
薄暗い店のカウンターのいつもの席にに当たり前に座るといつものようにジントニックが自然と差し出される。
「…お帰り、愛(いと)。」
肩より少し長いパーマがかった髪をひとつに括って柔らかい笑顔を向けるこの人がこのバーの店主であり…
私の、
この世でたった一人、
愛しいひとだ。
そして唯一、私を本当の名前で呼ぶことを許したひとだ。