いと。
「はぁ…。いない…か。」
もしやと思い自宅に戻ったが愛の姿はなかった。
「…どこいったんだよ。」
焦りばかりが募る。
ふたりで幸せにと、やっと心を通わせたところだと言うのに。
とにかく落ち着こうとキッチンでタンブラーにミネラルウォーターを注ぐ。
…その時だった。
ブー…ブー…ブー…
「…っ!公衆電話………まさか!」
急いで通話ボタンをスライドし、声をかける。
「…愛!……愛なんだろ?今どこに!」
『…………………。』
「……愛?」
『…………………。』
聞こえてくるのはざわめく雑踏やくぐもったアナウンスばかりだった。
「……………愛?…なぁ、何があった?
なんでもいいから、オレのとこに帰ってこいよ。」
『…………………。』
「聞こえてるんだろ?声…聞かせろよ。」
『………曜。』
耳に届いたのは、儚いくらい頼りない、消え入りそうな声。
「………愛。どこにいる?迎えに…」
『ダメ。もう…会えない。』
涙を必死に堪えているような苦しさが、何かとんでもないことが起こったことをうかがわせる。
「は?何言ってんだよ。会えない夫婦なんているかよ。」
『……曜。もう私のことは忘れて。
それだけ…伝えたかったの。』
低く、冷たく響く声。
「な…!バカ言うなよ。何があったって言うんだよ。
とにかく戻ってこい。問題があったなら一緒に解決したらいいんだ。
お前は一生、俺のそばで幸せに笑ってるんだ。
オレはお前を離さない。」
『…曜。……………ご、めん…ね。』
プツッ。…ツー…………
非情なほどアッサリと途切れた彼女の声。
「……………。」
理由もわからず取り残されて佇むオレは…どうしたらいいのか途方に暮れてしまった。