いと。

「京香……どうし………!」

その姿を見て一目でわかった。

記憶が戻っていると。

応接間のソファに座った彼女。

京都の由緒ある家の娘らしく背筋を伸ばした綺麗な姿勢の座り方。

立ち上がって一礼をする指先まで整った美しい所作。

年の割に童顔ながらも凛とした笑顔。

ついこの前までの、ほんわかとした緩さは影もない。

「………………思い、出したのか。」

瞬きすら忘れ、その事実を確認する。

「………はい。全て。」

その口調はやはりゆるり…ではなく凛と涼やかだ。

「そう……か。……そうか。」

自然と、手が彼女に伸びる。


ずっとずっと会いたかった愛しい女。


その時だった。

一瞬できりりと変わったその瞳。

「…大事なお話があって参りました。」

「話…?」

上げられた手は触れることも叶わず降ろされる。

「はい。…愛の結婚は破棄していただきます。」


< 432 / 561 >

この作品をシェア

pagetop