いと。
8章 叶わない想い
オレたちが3人揃って社長室に入ると、父はこれまでに見たことのない表情で驚いていた。
特に、愛の母親に。
「………一体何だ?なんの騒ぎで……。
それに、どうして君が…!」
アタフタする父に、最初に口を開いたのは
眞城社長だった。
「あなたは何てことをしてくれたんだ!
京香や私に地獄の苦しみを味わせたうえによくものうのうとこんな形で業務提携など…!人としてこれほど罪深いことはないぞ!」
怒りに任せ詰め寄る姿に思わず唖然としてしまう。
「なっ!何のことだ。」
対して視線の泳ぐ父は後ろめたいのがバレバレだった。
「知らないなどとは言わせない。京香は全て思い出した。
………25年前に味わった苦しみを!
どう償う気だ!」
話が全く飲み込めなかった。
「何を根拠に…!私はこれから仕事…」
逃げようと理屈をこねる父は本当に見苦しい。
すると愛の母親は冷ややかな視線を投げて怒りを込めた凛と張った口調で口撃した。
「…戸澤社長。ここまで言われて逃げるおつもりですか?
息子さんにまで真実を隠し、やろうとしていることの罪深さがわからないほどの無能ではなかったかと存じますが?」
「なっ………!」
動揺を隠せない父は顔を真っ赤にして怒りと恥ずかしさが入り混じったようだった。
でもオレには、そのやりとりの理由が理解できなくて。
「罪?一体なんの話をしているのですか?
僕には…全くわかりません。愛は今どこに…?」
疑問だらけの僕を見た愛の母親は…苦しそうにため息を零してからきりりと視線を上げた。
「………はぁ。
そうですね。ここではっきりしておきましょう。
彼の将来のためにも。」
凛とまっすぐ整った姿勢はごく最近まで身の回りのことだけで精一杯だったという話が嘘のようだった。
「戸澤社長。
あなたは…………愛の父親。
………そうですね?」
淡々とした強い口調に父は狼狽していた。
「…………そ、れは…………」
「違うとは言わせません。
あなたしか、考えられないのです。」
「………………。」
絶句した。
「どういう…ことだ?」