いと。

愛が姿を消したと知って、俺がしてやれることは何一つなかった。

これまでの数年間が何だったのだろうと思うくらい。


戸澤は…どれだけ苦しいだろうか。


自身の父親が犯した罪。

それによって愛も…彼女の母も、父も苦しめていたという事実。

やっと手にした愛しい女が泣く泣く自分の元を去ったこと。

探しようのない行方。



……決して触れ合ってはいけない関係。



いくら父親を憎んでも憎みきれないだろうな。

「…………あれ?」

ふと、小さな疑問が湧く。

戸澤はさっき、話の中で『愛の母親は酒が飲めない』と言っていた。

戸澤の父であるTホテルの社長は以前メディアで『酒に強くない自分は年末年始の度に大変な思いをする』と言って顔を赤くしていた。

………じゃあ、誰に似たんだ?

何を飲ませてもしれっとしていたあの酒豪っぷりは。

「………わからない、な。」

それを確かめる術は俺にはない。


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