いと。
「……愛。」
応接室で出迎えてくれたのはお母さんだった。
目に涙をため困ったように微笑みながら私に歩み寄り…ぎゅっと、抱きしめてくれた。
ずっとずっと欲しくて…でも絶対に手に入ることはないと諦め、希望も手放した母親の愛情。
私のことを思い出したあの日は、衝撃とショックでそれを感じる間もなかった。
「…おかあ、さん。………お母さん。」
間近で感じたことのなかったその香りは、新鮮でいてどこか懐かしくて、自分がまるで小さな子供になったような気がした。
「ごめんね、愛。ずっと…本当にごめんなさい。」
「…ううん。もう、いいよ。お母さん。そのかわりこれからたくさん、一緒の時間を作ってね。」
その時だった。
ーカチャリー
「………っ!」
それが父であると本能的に察知した私は金縛りにでもあったように動けなくなってしまって、心臓ばかりが跳ねて音を響かせた。
「………愛。おいで。」
私の様子に気づいた曜に手を引かれ、その隣にぴたりと寄り添う。
「………………。」
「愛。」
無言になってしまった私にお母さんはとても心配そうな目を向けた。
「大丈夫だ。何も心配いらない。
…わだかまりなく愛してもらうんだろ。
オレがちゃんと守るから、まっすぐ向き合って話してこいよ。」
曜の言葉は…強く、私の背中を押してくれた。