いと。

「………愛。」

その響きにハッとする。

だって今までそんな風に、父が私の名前を大事そうに切なそうに呼んだことなんてなかったから。

「…は…い。」

不安と拭えない嫌悪を胸に押し込めて私に歩み寄る父とまっすぐに向き合う。

次に聞こえたのは、

「この25年、本当にすまなかった。

…愛。この通りだ。」

深い謝罪の言葉。

そして、有り得るはずのない、頭を下げた姿だった。


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