いと。
その後、教会を離れた私たちが向かったのは一軒の小さなレストランだった。
真っ白い壁のその店は席も少なく小ぢんまりとした家庭的な雰囲気でなんだか居心地が良く、冬の寒さの中でも包まれる温かさを感じた。
「あれ?お父さんたちは?」
テーブルにつき両親がいないことに気づいた私に、曜はニヤリと笑ってメガネをくいっとあげる。
「…今に来るよ。あ、ホラ。」
「……?」
曜が顎で示した先に視線を向けると、
「………え?………うそ…。」
扉から出てきたのは、エプロン姿でケーキを運んできた母と………、
黒のコックコートに身を包み、ワゴンを押して来た父だった。
私たちの目の前にケーキを置いた母はにっこりと笑う。
「…お母さん?なんでそんなかっこ…?」
「どうしても自分の腕で作った料理でお前を祝ってやりたかったそうだ。
お義父さんの……たっての願いだよ。」
優しく耳に届く曜の言葉を聞きながら父を見ると、その顔は優しく微笑み、少しだけ目元が歪んでいた。
「…願い?」
「………そうだ。
『家族で囲める温かい料理を』。
それが、私が若い頃レストランを始めた理由だった。
京香と…いつか授かるだろう子供と一緒に私が作った料理を並べた食卓を囲みたかった。
料理で、幸せにしたかったんだ。
叶わない夢と諦めて随分経ち、夢だったことすらも忘れて随分経ったが……曜くんがチャンスを作ってくれた。
……愛。食べて…くれるか?」
瞳の潤む父に対して、もう心を許さない理由はなかった。
苦しかったのも悲しかったのも私だけじゃない。父だって、もがいていた。
「…うん。ありがとう。
………ありがとう、お父さん。」