いと。
差し出されたジントニック。
これをコクリと飲むと疲れが癒えるのがわかる。
心の中に積もった湿気を含む重い雪が雨に攫われて流れていくような感じがする。
そしていつしかその一杯をゆっくり彼とお喋りしながら楽しみ、マンションへ帰るのが日課になっていた。
「…いらっしゃいませ。」
入ってきた常連客の女性に挨拶し、『待ってて』という目線を私に向けて薫は立ち去る。
すっと通った背筋と凜とした歩き方は格好良くて、その長身も手伝い後ろ姿にも見惚れてしまうほどだ。
「……そんなに好き?薫さんのこと。」
背後から面白そうにそう声をかけられて、自分の目線がずっと薫を追っていたことに気づいた。
「………雄太くん。からかわないで。」
照れ隠しでそう突っぱねてはみたものの、付き合う前から一番そばで私たちを見てきた彼にはきっと全てお見通しだ。
くすくすと笑う雄太くんはやれやれという表情を少しだけ向けて忙しそうにまた接客に戻って行った。