いと。
「………何しに来たの?」
冷たい視線と怒りを含んだ低い声で威嚇するようにそう告げた。
「………相変わらず最低な口の聞き方だな。」
その口調は事務的で無表情だ。でも確実に、私を憎んでいる。
「あなたの娘ですから。そういう育て方した覚えあるんじゃないですか?」
「………………そうか。私に育てられたと思っていたか。」
一緒に過ごした記憶すらない関係を最大限に皮肉られ、思わず拳を握った。
………ダメだ。イライラが止まんない。
………………ふぅ。
心の中で一呼吸おき、まっすぐ冷静に父を見据える。
「私の前には姿を現すなと言ったはずです。
私の世界にあなたは要らない。
あなたの世界にも私は要らない。
…それで満足でしょ。娘はいない。死んだ。
それだけです。」
自分で言いながら心が沈みそうだった。
自分の存在を自分で否定するなんて。
もう、顔も見たくない。
そして背中を向け、店に入ろうと扉に手をかけたその時だった。
「私にはお前が必要だ。」
産まれてから一度も、この人の口から聞いたことのないセリフ。あり得るはずのないセリフ。
思わず振り返って見たその顔は、相変わらず無表情の上私に対する憎しみを含んでいて…
それでいてどこか、いつもと違っていた。