いと。
『愛しいひと』
それはまるでこれから始まることの合図のようだった。
くるりと態勢を変え、ソファに押しつけた私の服を慣れた手つきでめくりあげながら薫の唇は執拗なまでにしっとりと私の唇に絡まっていった。
「…んっ。……っあ、かお……る。」
呼吸すらもどかしいほどの攻め方に堪らず彼のシャツを握ってしまう。
「……っあ…、やっ!」
唇が離れたと思ったその一瞬の隙に、いつかの女に付けられただいぶ薄くなった傷をまた紅い印で掻き消される。
「……愛、そんなに可愛い声出してると手加減できなくなっちゃうよ?」
「…っ!手加減…なんかっ!……はぁ…っ、してくれたことない……っん。」
「そうだったっけ?」
クスリと笑いながら縦横無尽に私の身体を這い回り弄ぶ熱い手と唇。
脱ぎ捨てられていくお互いの服と羞恥心。
絡まり合う肌と……もっともっと溶けてひとつになりたいと願う心。
薫は…時に狂ってしまいそうなほど焦らしたり、時に許しを請うてしまいそうなほど強く激しく攻め立てたりして私の理性を崩壊させる。
やがて私は頭の中の真っ黒な雲全てを振り払うように薫の深くて甘くて濃い愛情表現に没頭していった。
愛おしくて切なくて、何度も薫の名前を呼びながら。