いと。
「愛、今日はウチで待ってて?」
帰り際店先まで見送りに出てくれた彼がキーを手渡すのと同時にそっと耳元で囁く。
「あ、うん。でもお店は?」
「今日は月曜だから混まないよ。雄太に任せても大丈夫。いいね?」
私といる時だけに出す、大好きな低くて甘い声。
それは一瞬にしてどきりと、甘い時間を連想させた。
「うん。わかった。じゃ、あとでね。」
手を軽く振り笑顔を向ける。
そして帰ろうと足先を通りに向けた瞬間、
「…っ!?」
気づけばあっという間に腕を引かれ、愛しい温もりに包まれていた。
「………薫?どうし……っ!」
抵抗の隙もなく、風のようにさらりと撫でるように触れていった彼の唇。
そしてその表情はしてやったり顔だった。
「か…薫っ!なんでこんなとこでこんないきなりっ!」
真っ赤になって反論する私をその腕に抱きしめたまま、薫は楽しそうに見つめてくる。
店の前は通行人だっているというのに。
「~~~~~~っ!」
悔しいけどこうなるともう全ては薫の思うがままだ。
店の前であることの恥ずかしさでいっぱいの私は彼の胸を突っ張ってみるけれど………その力に敵うはずもなく、全てを放棄するように腕をダラリと下げ、全身を預けてその胸に顔を埋めた。
「もう……。」
そう呟いた私の顎を、薫はいとも簡単にひょいっと持ち上げる。
そして私が大好きな最高に甘い笑顔でこう言った。
「ふふ、俺の勝ち。その『参った』って顔大好き。つい見たくなるんだよね。」