常務サマ。この恋、業務違反です
「い、いきなり近付くな!」

「え?」


挙動不審としかいえない態度に、私の方が傷付いて目を丸くした。


「すみません……。でも私、ちゃんと声掛けたんですけど」

「俺に聞こえてなきゃ、掛けた意味がない」

「そんな無茶な……って、あ」


パソコンの正面から高遠さんが身体をどかしたせいで、パソコンの画面が良く見える。


「やだ、ここ変換ミスしてますね。これは直しておきます。……って、高遠さん?」


身を屈めたまま顔を横に向けて、私は眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「あの……どうしたんですか?」


さっきよりも更に椅子が逃げて、高遠さんはほとんど部屋の端まで移動していた。


「近いって言ってるだろ」

「え? ……あ、すみません」


謝りながらも、そんなに近いか?と納得行かない気分になる。
それでも大人しく身を引くと、高遠さんは溜め息をついてようやくデスクの前に戻って来た。


「えっと……どこが変換ミスだって?」


気を取り直したようにパソコンの画面を覗き込む高遠さんに、私は指差してその箇所を示した。
そんなちょっとした仕草にさえも、高遠さんはピクッと身体を強張らせる。


「あ、ああ、ここか。じゃ、直しておいて」


私を見上げることもなく、素っ気なく取り繕う高遠さんに、私はますます首を傾げた。
その角度から、高遠さんの耳が良く見える。
そして私は、その耳が真っ赤に染まっているのを見つけてしまった。
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