常務サマ。この恋、業務違反です
三十階から階段を降りる。
今まで、そんなに階段を降りた経験なんかない。
一瞬途方にくれた私の背後で、高遠さんが溜め息をついた。


「だよな。仕方ない。それじゃあ、葛城さんはそれ持って総務行って来て」


私を追い越して階段を降りながら、散らばった書類を拾って私の抱える山の上に載せてくれる。
全部載せられてから、私は戸惑って高遠さんを見上げた。


「あの、でも……」

「俺が拾いに行って、そのままメール室に届けるからいいよ」

「そんな! 私が行きます!」


慌てて踊り場に立って見上げると、高遠さんは意地悪く笑って私の頭を軽く撫でた。
そんな仕草にドキッとして思わず目線を下げると、無理無理、と面白そうな声が降って来た。


「下りだと思って侮ると、明日動けなくなるよ。あんた普段全く運動しない人間だろ?」

「う……そうですけど」

「入社して直ぐの頃、館内避難訓練で地上まで降りたことあるんだ。慣れないせいか、膝が笑う笑う。
運動不足を感じて情けなくなった瞬間だったな」


クスクスと笑いながら、高遠さんは既に次の踊り場に向かって階段を降り始めている。


「大丈夫だよ。俺は、それなりに鍛えてるから」
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