常務サマ。この恋、業務違反です
階段の途中で立ち止まって、高遠さんはそう言って笑いながら私を見上げて振り返った。
向けられる優しい笑みに、ドクンと心臓が騒いでしまう。
「でも……」
「ちょっとは頼れよ。甘えることも適度に覚えろ」
「そんな! もう十分甘えてますよ!」
「じゃあ、俺にわかるくらいもっと甘えろ」
「高遠さん!」
更に階段を降り続けるその背中を追って、私も次の踊り場に立った。
高遠さんはゆっくりとその下の踊り場から私を見上げて来る。
「……今夜のスケジュール、全部キャンセルしておいてもらっていい?」
「え?」
予想もしなかった一言に、私は素で驚いて目を丸くした。
「あの……何か急な用事でも?」
戸惑いながら聞き返した私に、高遠さんは短く、うん、と頷いた。
「……たまにはプライベートで、飲みに行きたいから」
「は」
プライベート。極普通の当たり前過ぎるくらいの願望に、私は思わず目を瞬かせた。
この数週間私が接して来た間も、平日の夜の高遠さんにプライベートってスケジュールは皆無だった。
今突然言われても、ちっとも我儘だなんて思えないほどに。
「わかりました。今日の予定は電話会議ですし、延期は難しくないと思います」
この後の高遠さんのスケジュールを思い出しながらそう言って、私はニコッと笑った。
私の返事を聞いて、高遠さんは軽く眉間に皺を寄せた。
そして、クルッと背中を向けると、手摺に右手を滑らせる。
「……あんたも一緒に行くんだよ、葛城さん」
「へ?」
「飲みに行こう、って、誘ってるんだよ」
きょとんとして聞き返す私に焦れたようにそう言って、高遠さんは一段抜かしで階段を降りて行く。
「ちょっ……! 高遠さんっ!」
全く予想もしなかった突然のお誘いに、私は軽く動揺した。
それでも呼び掛けた背中は一度も私を振り返ることはなく、私はただ呆然とその場に立ち尽くした。
向けられる優しい笑みに、ドクンと心臓が騒いでしまう。
「でも……」
「ちょっとは頼れよ。甘えることも適度に覚えろ」
「そんな! もう十分甘えてますよ!」
「じゃあ、俺にわかるくらいもっと甘えろ」
「高遠さん!」
更に階段を降り続けるその背中を追って、私も次の踊り場に立った。
高遠さんはゆっくりとその下の踊り場から私を見上げて来る。
「……今夜のスケジュール、全部キャンセルしておいてもらっていい?」
「え?」
予想もしなかった一言に、私は素で驚いて目を丸くした。
「あの……何か急な用事でも?」
戸惑いながら聞き返した私に、高遠さんは短く、うん、と頷いた。
「……たまにはプライベートで、飲みに行きたいから」
「は」
プライベート。極普通の当たり前過ぎるくらいの願望に、私は思わず目を瞬かせた。
この数週間私が接して来た間も、平日の夜の高遠さんにプライベートってスケジュールは皆無だった。
今突然言われても、ちっとも我儘だなんて思えないほどに。
「わかりました。今日の予定は電話会議ですし、延期は難しくないと思います」
この後の高遠さんのスケジュールを思い出しながらそう言って、私はニコッと笑った。
私の返事を聞いて、高遠さんは軽く眉間に皺を寄せた。
そして、クルッと背中を向けると、手摺に右手を滑らせる。
「……あんたも一緒に行くんだよ、葛城さん」
「へ?」
「飲みに行こう、って、誘ってるんだよ」
きょとんとして聞き返す私に焦れたようにそう言って、高遠さんは一段抜かしで階段を降りて行く。
「ちょっ……! 高遠さんっ!」
全く予想もしなかった突然のお誘いに、私は軽く動揺した。
それでも呼び掛けた背中は一度も私を振り返ることはなく、私はただ呆然とその場に立ち尽くした。