常務サマ。この恋、業務違反です
そして……私と向かい合って座った高遠さんは、言いようもなく不機嫌だった。


「なんか信じられないです! 私が高遠さん……取締役部長とお酒の席に同席するなんて!」


言葉通り舞い上がって緊張で手を震わせながら、店員から受け取った生ビールのジョッキを両手で高遠さんに手渡すのは国際部の新庄さん。


「あ、私、サラダ取り分けますね! 何か苦手な物とかありますか!?」


そう言っていそいそとトングを手にするのは山田さん。


二人とも、あれだけ乗り気だった割には、緊張で動揺して声が引っくり返っている。


私はちょっと苦笑して、さっきから向けられる刺すような視線に、肩を震わせた。


『飲みに行きたい』って言うから、場所は私でもそれなりに来慣れているちょっとこじゃれた居酒屋。
高遠さんの今夜の予定をキャンセルして、私はだいぶ長いこと迷った後、この二人にメールをした。


『今夜、都合が良ければ、高遠さんと飲みに行きませんか?』


二人からの返事は文面からも興奮が感じられるもので、予約を入れた午後七時……私と高遠さんはお店で二人と合流した。


そして……先に座っていた二人に目を丸くしたその瞬間から、高遠さんは不機嫌だった。
気付くのは私だけ。なんせ国際部の二人にとっては、多分それが高遠さんの姿だから。
ムッとして黙り込む高遠さんを見ても、二人の中の高遠さんのイメージからはそう遠くない。


もし二人が仕事から離れた高遠さんの姿を少しでも知ってくれれば、あんな噂が流れることもないんじゃないか……と思ったけど、この様子じゃ二人に植え付いた勝手なイメージを増長するだけだったかもしれない。
< 114 / 204 >

この作品をシェア

pagetop