常務サマ。この恋、業務違反です
嵐のように訪れて去っていったキスの余韻は、私の鼓動にはっきりと刻み込まれていた。
これ以上打ち続けたら壊れてしまいそうで、私は自分の身体をギュッと抱きしめた。


「……嘘」


どうしようもなく揺れて震える声が、耳に届いた。
そこに宿る戸惑いを意識して、胸がキュンと締め付けられる。


『好きだ』


告げられたのは、短いシンプルな言葉。
だからこそ、私の心に真っ正面から突き刺さっていた。
高遠さんの声を心の中で反芻した途端、カアッと頬が熱くなるのを感じた。


「う、そ……」


思わず漏れた声を抑えるように、私は両手で口を押さえた。


高遠さんが私のこと……?


短い言葉だけなら聞き間違いだと思えたのに。
それを払拭するかのように、私の唇にはリアル過ぎる感触が残されていた。


私は、高遠さんを騙してるだけなのに。
三ヵ月過ぎたら、私は高遠さんの元から去って本来の業務に戻って行く。
その後はきっと確実に、高遠さんとの接点はどこにもないはず。
だって、この任務事態が特殊で異例なものだから。


戸惑いが大き過ぎて、修復された思考回路がまたパンクしそうになる。
そんな中、私は自分の気持ちすらわからなくなっていた。


そんなのダメだよ、って私を諌める声。
それとは真逆に、高遠さんの気持ちを嬉しいって思う純粋な心。


――私はどっちに忠実になるべきなのか。


加瀬君。こうなってしまったら、私はどうしたらいいの……?


自分では判断出来なかった。
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