常務サマ。この恋、業務違反です
そんな考えはお見通しなのか、航平は私から離れて笑いながらペットボトルを傾けた。
「……二十年以上前の母親だったか」
「嘘ばっかり!」
「本当だよ。去年日本に戻って来てから……って言うか、ここ数年付き合ってた女いないし」
それを聞いて、初めての接待の席で会ったエリーさんの言葉を思い出した。
中途半端なことしたくないから、航平は大事な人を作らないって教えてくれた。
「……じゃあ、どうして私は……?」
思わず呟いた一言に、え?と航平が軽く私を振り返る。
その視線にハッとして、私は慌てて大きく首を振った。
「ご、ごめん! なんでもない」
相変わらず笑顔が強張る。
それを誤魔化そうとして、私は鍋に蓋をして火加減を弱めると、まな板の上に放置していた生野菜でサラダを作ろうと包丁を握った。
「何でもなくないだろ。何?」
航平はペットボトルを冷蔵庫に戻すと、フウッと息をしながら腕組みして私をジッと見つめる。
その視線を背中にひしひしと感じて、キュウリを切る手が一瞬止まった。
「……エリーさんから聞いたの」
このまま続く沈黙の方が苦しくなって、私は早口でそう言った。
そしてその勢いで再び包丁を動かし始める。
「エリー? エリーから何を?」
「……航平が大事な人を作らないのは、誠実だからって」
「……?」
「航平は仕事に精一杯で、それどころじゃないから、って」
「ああ」
私の返事で納得したように、航平は短くそう呟いた。
「……二十年以上前の母親だったか」
「嘘ばっかり!」
「本当だよ。去年日本に戻って来てから……って言うか、ここ数年付き合ってた女いないし」
それを聞いて、初めての接待の席で会ったエリーさんの言葉を思い出した。
中途半端なことしたくないから、航平は大事な人を作らないって教えてくれた。
「……じゃあ、どうして私は……?」
思わず呟いた一言に、え?と航平が軽く私を振り返る。
その視線にハッとして、私は慌てて大きく首を振った。
「ご、ごめん! なんでもない」
相変わらず笑顔が強張る。
それを誤魔化そうとして、私は鍋に蓋をして火加減を弱めると、まな板の上に放置していた生野菜でサラダを作ろうと包丁を握った。
「何でもなくないだろ。何?」
航平はペットボトルを冷蔵庫に戻すと、フウッと息をしながら腕組みして私をジッと見つめる。
その視線を背中にひしひしと感じて、キュウリを切る手が一瞬止まった。
「……エリーさんから聞いたの」
このまま続く沈黙の方が苦しくなって、私は早口でそう言った。
そしてその勢いで再び包丁を動かし始める。
「エリー? エリーから何を?」
「……航平が大事な人を作らないのは、誠実だからって」
「……?」
「航平は仕事に精一杯で、それどころじゃないから、って」
「ああ」
私の返事で納得したように、航平は短くそう呟いた。