常務サマ。この恋、業務違反です
短いノックをして、勢い良くドアを開ける。
大きく開けた視界の中央に、上着を腕にかけて立ち上がる航平の姿が飛び込んで来た。


「お帰り。俺もこれから行って来る」


そんな言葉を聞きながら、私は真っ直ぐ航平のデスクに向かって行った。
航平は私に目を遣って、訝しそうに首を傾げた。


「どうかしたか?」


人事部長から預かった封筒を手にしたまま、私は航平から目を逸らして俯いた。


「航平、話があるの」


緊張で喉がカラカラに乾いていた。
頭のてっぺんがズキズキと痛い。


「ん? ごめん、俺、そろそろ出ないと」


上着を羽織りながら腕時計で時間を確認して、航平は一言、あ、マズい、と呟いた。


「後五分しかない。戻ったら聞くよ」


航平はすれ違い際に軽く私の肩をポンと叩いた。
そして、行ってきます、と私の横を通り過ぎていく。


言わなきゃ、って気持ちだけが膨らんでいた。
今を逃したら、業務命令に背く覚悟が萎んでしまう。


「……報告書、預かったの!」


封筒をぎゅっと胸に抱き締めて、私は肩を強張らせながら必死にそう叫んだ。


ドアに手を掛けた航平が、え?と振り返るのがわかる。


「つい今、……人事部長から」


思い切って畳み掛けながら振り返ると、航平は大きく見開いた目で私を見つめていた。


「調査って……私のこと、だよね?」


ドキドキと鼓動が速まる。
それでも反応を見逃さないように、私は唇を噛み締めて航平をジッと見つめた。
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