常務サマ。この恋、業務違反です
自分のデスクに座って、私はぼんやりとパソコンを眺める。
キーボードの上にでんと封筒を置いたのは、冷静に頭を切り替えようとする自分に抗いたかったからだ。


航平は否定しなかった。


航平が何を知りたかったのか。
その答えが書かれている調査報告書を私の手元に残したまま、いつもと変わらない落ち着いた様子で仕事に行ってしまった。


こうして十五分も経てば、完全にヒートアップしていた私の思考も、ゆっくりゆっくり冷めて行く。


『この件については一切の他言を禁ずる』


そんな業務命令に背いてでも航平に自分で話したい。
私の昂った理性は他ならぬ航平の手で止められた。


そうして、今。
私は、もう一度自分の中で与えられた業務命令を噛み砕く。


今までのOL生活の中で、理不尽だとか納得行かないって思う局面にはいくらでも遭遇した。
文句や愚痴を言うことはあっても、結局いつも飲み込んで来た。


だってそれが、雇われてお給料をもらうってことだから。
私だけじゃなく加瀬君だって他の同期だって、学生時代の友人だって、みんな私と考え方はそう大差ない。


出鼻をくじかれたようなこの冷却時間で、私はいつも通り割り切ろうって考えてみる。


会社から下された業務命令に従って、私がここに潜入した理由は口外しない。
航平が知りたいことだけを、自分の口で説明する。


航平の名前と肩書が書かれた『親展』封筒。
私はその赤い文字をジッと見つめたまま、ほとんど無意識にキーボードの上から取り上げた。
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