常務サマ。この恋、業務違反です
彼女達は国際部の社員さんで、新庄さんと山田さんという名前の同年代の女性だった。


「なんかあったら声掛けてね~」


と明るく立ち去って行った彼女達をその場で捕まえてもっと詳しい話を聞きたいところだったけど、業務時間内じゃそうもいかない。
結局飲み物を何も持って来れないまま、誰もいない散らかり放題の執務室に戻って、私はさっきの話をずっと考えていた。


相手があれだけ高スペックな男だもの、セクハラ疑惑が濃厚かもしれない。
特定の彼女は作らなくても、遊びの彼女ならありって男なら、むしろコロコロ代わる派遣社員の秘書はうってつけなのかも。


そんな男、最低!!
そのせいで加瀬君が年に四回泣かされて、私がそれを慰めるって事態に陥っていたかと思うと、とんでもなく憎き男だと思えて来る。


きっとこれが答えだ。それなら、これから三ヵ月も敵陣で一人スパイ活動を続ける意味もない。
派遣会社の社員としてどうかと思うけど、さっさと業務命令を解除してもらって、本来の仕事に戻った方が絶対に利口だ。
書類を捲って片付けながらそう思った時。
これまで一度も開かなかったドアが開く音がして、私はビクッと身体を強張らせた。
そして恐る恐る振り返って……。


「あれ……」


そんな声が聞こえると同時に、私は本当に動けなくなった。


「あっ……、あのっ……」

「……あんた、誰?」


大きく開いたドアから一歩踏み行って、腕組みしながら小首を傾げた超イケメン。
この執務室の主である高遠航平……が、立ち竦む私に怪訝な瞳を向けていた。
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