常務サマ。この恋、業務違反です
突然の大声に驚いた高遠さんが、一瞬素で目を丸くして一歩後退した。


「なっ……! バカ、どっから声出してるんだっ……」


それでも直ぐに不機嫌な顔になって、高遠さんは私の腕をグイッと掴んで引き寄せると、後ろから囲い込んだ大きな右手で私の口をなんなく塞いだ。


「んんんっ……! むうううっ~~!!」


いろんな意味で危機感がMAXになって、私は高遠さんに羽交い締めにされたまま、無我夢中でジタバタと手足を動かした。


「ちょっ……! 暴れるなっ……」


全身の力を込めて抵抗する私に、高遠さんは攻撃を避けるように身体を逸らして、私から手を離した。
思いがけず支えを失った私の身体は、そのまま後ろに思いっ切り傾いて……。


「あ、おいっ」


倒れる私に咄嗟に伸びた腕に、反射的に掴まってしまった。
そして。


「葛城さんっ!? どうしました!? ……って、部長!?」


私の声がオフィスまで聞こえたのか。
開けっ放しだったドアから駆け込んで来たのは、慇懃無礼な人事部長。
人事部長が目を丸くしてドア口に立ち尽くした時、私と高遠さんは一緒にソファに倒れ込んでいた。
見た目だけは、高遠さんが私を押し倒したようにしか見えない状況で。


「ち、違うんです! これは私が……!!」


反射的に高遠さんを押しのけると、私は急いで身体を起こした。


この人が今までのスタッフにしてきたことは最低だけど、今この状況に関して非はない。
人事部長が見たままを信じてしまったら、いくらエグゼクティブでも減給や降格の処分どころじゃすまない。


セクハラは立派な犯罪だからこそ、『冤罪』でこの人を貶めてはいけない。
それなら今この状況で高遠さんの身の潔白を証言出来るのは私しかいない!!
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